龍神楊貴妃伝

安倍晴明前世譚と吉備入唐伝説

●隆昌女は楊貴妃か?

 安倍晴明前世譚には、安禄山や楊国忠など、楊貴妃の時代の実在の人物が登場します。しかし、楊貴妃は登場していません。そのかわり、絶世の美女として 「隆昌女」が登場します。

 同時に、この「簠簋内伝金烏玉兎集」に取り付き、吉備真備の乗る船と共に、日本に渡って来た「隆昌女」のイメージが、九尾の狐の吉備真備をだまして、吉 備真備の乗る船と共に、日本に渡って来た「若藻」のイメージと重なるのは、読者の皆さんも感じられるのではないでしょうか?

 私は、始めこの話を読んだ時には、「楊貴妃」が出て来ない事に、少しの違和感を覚えつつも、たいした不思議とは考えていませんでした。しかし、楊貴妃渡 来の 伝説を知った後は、わざと、楊貴妃を隠したのだと思うようになりました。

 隆昌女の夫の名は、「玄東」で、楊貴妃の夫である「玄宗」とは、一字違いです。
 それから、楊貴妃の楊は、「ヤナギ」の別字です。「柳眉(りゅうび)」「柳腰(りゅうよう)」(やなぎごし)など、楊貴妃の美しさが、しばしば、柳に例 えられるのは、おそらく、皆さんも、ご存知だと思います。
 私は、リュウジン村の名前の語源を、楊貴妃を指し示す「柳人」ではないかと想像していますが・・・・この隆昌女も、読みは、「リュウショウジョ」です。 「隆昌女」こそ、「楊貴妃」だと考えられないでしょうか?

●安倍晴明前世譚と吉備入唐伝説

 問題は、この安倍晴明の前世譚が成立した年代がいつ頃か?という事です。

 このお話の成立が、近代の事であれば、信憑性は低くなります。しかし、この伝説が古くから伝わっているものだとすれば、古ければ古いほど・・・吉備真備 の時代に近付けば近付く程、検討する価値が高くなるでしょう。

 残念ながら、「安倍仲麿生死流傅輪廻物語」の成立年はわかりません。しかし、類似の物語の成立年代から、江戸時代を遡るものではないと言われています。

 そうであるなら、残念ながら、この物語を楊貴妃と結び付けて考える事に、あまり意味はないでしょう。

 そういう風に考えていた時でした。私は、テレビで「吉備大臣入唐絵巻」の里がえりのニュースを見ました。
 「吉備大臣入唐絵巻」は平安時代の末期、後白河法皇のサロンで作られたものと伝わり、昭和7年に、アメリカのボストン美術館に買い上げられ、海外に流出 したものです。この海外流出が問題となり、「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」の制定のきっかけとなった事でも知られています。
 昭和39年、東京オリンピックの記念展示で来日して以来の久しぶりの里がえりでした。
 
 ぼんやりと寝そべりながら、そのニュースを見ていた私は、その「吉備大臣入唐絵巻」に描かれた内容が、安倍晴明の前世譚とほぼ、同じ内容であるらしい事 に気がつき、跳ね起きました。
 もし、そうであるなら「安倍晴明の前世譚」のお話の成立は、一気に平安時代の末にまで遡ることになります。

 私は、そこから、さらに調べ「吉備大臣入唐絵巻」の成立のモデルとなった物語として、大江匡房(おおえのまさふさ)の語った事を書いた「江談抄(ごうだ んしょう)・吉備入唐の間の事」を知ったのです。

 この「江談抄・吉備入唐の間の事」が、「安倍晴明の前世譚」や「九尾の狐の若藻の渡来伝説」の原形である事は、間違いないでしょう。

 しかし、残念ながら、「吉備大臣入唐絵巻」にも、「江談抄・吉備入唐の間の事」にも、「楊貴妃」を思わせる美女の事も、九尾の狐の事も触れられていませ ん。
吉備大臣入唐絵巻
吉備大臣入唐絵巻より「囲碁勝負」の場面

 囲碁の勝負の時、「安倍仲麿生死流傅輪廻物語」で、碁石を体内に隠すのは、唐の囲碁の名手の妻 「隆昌女」でしたが、「江談抄・吉備入唐の間の事」や「吉備大臣入唐絵巻」では、「吉備真備」が、黒石を飲み込み、体内に隠す事になっています。
 ある意味、吉備伝説と安倍晴明の前世譚の違いは、この美女が登場するかどうかの違いであると言ってもいいかもしれません。

 しかし、私は、「吉備大臣入唐絵巻」や「江談抄・吉備入唐の間の事」には、元々は、美女か九尾の狐の事が書かれていたのではないかと想像しています。

 「吉備大臣入唐絵巻」には、後半部分が現存していません。そして、多くの学者が認めている事ですが、「江談抄」は、後世になって、付け加えられたり、削 られたりしている部分があるようです。この事は、また後ほど、「阿倍仲麻呂と楊貴妃」の中で検証しましょう。

 どちらにせよ・・・残された文章から言っても、「吉備伝説」を生み出したのが、この大江匡房である事は間違いないでしょう。

 私は、大江匡房が、楊貴妃渡来の事件の事を知り、この「江談抄・吉備入唐の間の事」を残したのではないかと想像しました。
 そしてこの想像が、私に「野馬臺詩」に楊貴妃渡来の秘密が隠されているのではないかと想像させ、さらに、大江匡房の別の書「狐媚記」に注目させるきっか けを与えたわけです。

 しかし、結論を出す前に、大きなハードルがあります。
 阿倍仲麻呂も吉備真備も正史に記録があります。まず、物語を正史と照らし合わせて、検証しなければなりません。

解明された世界を強震させる真実のミステリー

どうか貴方自身の眼で確かめてみてください!

龍神楊貴妃伝1「楊貴妃渡来は流言じゃすまない」


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龍神楊貴妃伝2「これこそまさに楊貴妃後伝」


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