●筆者の妄想的想像
称徳(しょうとく)(高野)天皇の詔(みことのり)が終わった後、吉備由利(きびのゆり)は、その癇癪(かんしゃく)を怖れて誰も寄り付かない天皇の居室へと向かいました。
「由利、何をしに来た!」称徳天皇は、吉備由利の顔を見るなり、怒鳴りつけたでしょう。
「お話をしにきました。」
「法均(ほうきん)と清麻呂(きよまろ)の事であろう・・・・何も話をする事はない。下がれ!」
「法均と清麻呂は、陛下の忠実な臣下(しんか)です・・・・それを・・・・」
「臣下なら、臣下らしく・・・意(い)を汲(く)んで振る舞うのが道ではないか!それを儂(わし)に楯突(たてつ)き、嘘(うそ)をついてまで、邪魔(じゃま)立(だ)てしようなど小賢(こざか)しい・・・・儂(わし)は断じて許さぬ!」
「法均と清麻呂は、陛下(へいか)の事を思えばこそ・・・・」
「黙れ!最前(さいぜん)、奴らと共に謀(はか)った者を知っていると申(もう)したであろうが・・・・儂(わし)は、慈(いつく)しみと哀(あわ)れ
みの心から、そなたを許してやったのだ・・・・これ以上、申すなら、そなたも厳罰(げんばつ)に処(しょ)する事になるぞ!」
「お可哀想(かわいそう)に・・・・」
「何!!」
吉備由利は、涙を浮かべていました。そして、怒りに少しとまどいの表情が混じった称徳天皇に、膝(ひざ)立ちで近付いていました。
「お可哀想に・・・・」
また、 由利は、言いました。そして、 称徳天皇を抱きしめると、称徳天皇の頭をなでました・・・。
無礼(ぶれい)な!・・・称徳天皇は、そう叫ぼうとしました。
しかし、次の瞬間、称徳天皇の実際(じっさい)にとった行動は、自分でも意外(いがい)なものでした・・・。
称徳天皇は、昔、母である光明皇太后(こうみょうこうたいごう)にそうした事があったように、由利にすがりつくとワンワンと泣き出しました。
「道鏡(どうきょう)を後継(こうけい)にする事は、儂(わし)の夢じゃった・・・・。儂は、法均(ほうきん)と清麻呂(きよまろ)を許さぬぞ!・・・断(だん)じて許(ゆる)さぬ・・・絶対にじゃ!」
称徳天皇は、そう言いながら・・・吉備由利を抱きしめ、泣き崩(くず)れました・・・。
本当に、こんな事があったかどうか・・・・私は知りません。今のは、あくまで、私の妄想(もうそう)です。
しかし、この時、 称徳(高野)天皇の凍(こお)った心を融(と)かした人物がいる事は確かです・・・・。
●称徳天皇の心を融かしえたのは誰か?
それは、いったい誰だったのでしょうか?
師(し)である吉備真備(きびのまきび)ならありそうですが・・・・たとえ、吉備真備であったとしても、女性(じょせい)である称徳天皇(しょうとくてんのう)と心を一体化(いったいか)させる事は出来ず、力不足(ちからぶそく)であったでしょう。
称徳天皇の母である光明皇太后(こうみょうこうたいごう)であれば、それが出来たかもしれませんが、この時、光明皇太后は、すでに鬼籍(きせき)に入っています。
私には、 やはり、これを行なったのは、吉備由利(きびのゆり)であった・・・・としか思えないのです
|